秋蝶の濃き影われに触れゆきし

(あきちょうの こきかげわれに ふれゆきし)

あるふぁ俳壇2020年冬号掲載句
高野ムツオ先生 佳作

初めての高野先生選が嬉しいです。

まだ夏の日差しが残る9月、一人、坂をのぼっていたときに出逢った蝶のことです。実際には蝶の影が私の脚の影をふわふわと横切ってゆくかたちで、蝶の影とわれの影の両方を詠み込もうとしたのですが説明調になってしまい、蝶の影に焦点をあてることにしました。それで矛盾なく読み手に伝わるかは、一種の賭けのようなものでした。

影は秋より夏のほうが濃いのではないかと考えましたが、実景のまま詠みました。秋の影は長く伸びて美しい。衰えてゆくものの美しさをくっきりと伸びゆく影の輪郭に見いだしたつもりです。